IPOは儲かるのか?確率とその理由をファンド業務10年のプロが解説
IPO投資に興味を持っている方はホントに儲かるのか気になるのではないでしょうか。
実際、IPOが儲かりやすい投資法であるのは確かです。
株式投資に関する複雑な知識を必要とせずにできる点は、まさに初心者向きであると言えます。
そんなIPO投資は果たしてどれくらい儲かるのでしょうか?
筆者は仕事で10年ほど億単位のファンド業務をしており、その経験からこの記事ではIPO投資でどのくらい儲かるのか、またどんなリスクがあるのかを解説します。
投資でできる限りリスクを回避したい人はぜひ一読してください。
目次
IPO投資はホントに儲かるの?その理由とは
結論から言えば、IPOのプライマリー投資は儲かりやすいといえるでしょう。
なぜなら、公募の際の公募価格は、市場価格からディスカウントされているからです。
ちなみに、IPOのプライマリー投資とは、抽選に参加し、公募価格で買って初値で売る投資法のことを言います。
通常、IPO投資と言えば、プライマリー投資のことを差すことが多いです。
基本的にIPOでは、「市場で取引した場合、このくらいの株価になるだろう」という価格を予想します。
その価格からおよそ10%~30%、市場の状況によってはそれ以上ディスカウントしたものが公募価格です。
公募の際は、その価格で投資家へと販売されます。
そこには、きちんと理由があるのです。
そもそも、これから上場する会社は市場で流通していません。
そのため、流動性が低く、売買が成立しないかもしれません。
それを避けるために、すでに上場している同業他社よりも安い価格に設定するのです。
また、すでに上場している会社は、財務情報が過去から最新のものに至るまで長年に渡り開示されています。
しかし、IPOはそうではありません。
現在の業績や財務状況が分かっても、過去の分については開示していないことが多いのです。
業績や財務情報が開示されている会社と、そうでない会社のどちらの株を投資家は買いたいでしょうか?当然前者の方になりますよね。
つまり、IPOは投資の判断材料が上場会社よりも少なく、投資対象としてのリスクが高くなるのです。
そんな会社の株を投資家に買ってもらうためには、安くしなければなりません。
だからこそ、リスクがある分、想定される市場価格よりもディスカウントした価格を公募価格に設定するのです。
また、IPOディスカウントが行われるのには、それを取り扱う幹事証券会社の事情もあります。
幹事証券会社はIPO銘柄をきちんと売り切らなくてはなりません。
なんとか売り切るために、多少割り引いて「安売り」するわけです。
これらの理由から、IPOでは、本来市場で取引されると想定される価格よりも安い価格で株を販売します。
そのため、値上がりしやすくなるのです。
それでは、実際にIPO投資をした場合、どれくらいの儲けが出るのでしょうか?
次に、そのことについて説明します。
どれくらい儲かる?IPO投資で儲けは、2018年の場合は2,000万円以上!
それでは、実際にIPO投資によってどのくらいの儲けが得られるものなのでしょうか?
IPOは銘柄によって公募価格も初値も異なるため、一概にいくらとは言えません。
とはいえ、どれくらいの価格になったのかは知りたいところではないでしょうか。
一例として、2018年のIPOを紹介します。
2018年に行われたIPOの件数は95件です。
この95件のIPOに全て参加したと仮定すると、2,000万円以上の利益が出たことになります。
その詳細な内容を、次で解説します。
IP投資で儲かる確率は40%〜96%
IPO投資で初値売りをした場合の勝率は高く、80%以上にもなると言われています。
実際にはその年によって異なるのですが、基本的にはかなりの高確率で初値が公募価格を上回ります。
もちろん、IPOの勝率がふるわない年もあります。
2000年以降で言えば、2008年は新規上場した49件のうち、初値が公募価格を上回ったのは20件でした。
つまり、勝率は40.8%です。
また、2010年は新規上場した22件のうち、初値が公募価格を上回ったのは10件でした。
つまり、勝率は45.4%となります。
勝率5割を切ったこの2つの年に何があったかというと、経済危機です。
2008年はリーマンショック、2010年はギリシャを皮切りとした欧州債務危機が発生しています。
そのため、世界的に景気が悪く、2008年の日経平均株価は一時7,000円を割りこむ水準まで下落しました。
一方、2010年は日経平均株価が底の方でもみ合いとなっています。
つまり、一年を通して株式市場が軟調な年だった、ということです。
基本的に経済危機などが起こると、株から債券や金といった安全資産に資金が移ります。
このような市場の動向もあって、2008年と2010年はIPOも不調だったと考えられるのです。
しかし、それ以外の年については、全て5割を上回る確率で初値が公募価格を上回っています。
特に、安倍政権に変わった年(2012年12月)以降のIPOは勝率が高まっています。
その内訳は、
- 2013年…54件中52件で初値が公募価格を上回る。(勝率96.3%)
- 2014年…77件中59件で初値が公募価格を上回る。(勝率76.6%)
- 2015年…92件中82件で初値が公募価格を上回る。(勝率89.1%)
- 2016年…83件中67件で初値が公募価格を上回る。(勝率80.7%)
- 2017年…90件中82件で初値が公募価格を上回る。(勝率91.1%)
- 2018年…95件中80件で初値が公募価格を上回る。(勝率84.2%)
です。
2014年は勝率76.6%と8割を切っていますが、それ以外はいずれも8割以上の勝率となっています。
アベノミクスがスタートしてから株式市場は活況となり、日経平均株価も上昇しました。
それまで安全資産に逃避していた資金が株式市場に戻ってきたわけです。
その影響がIPOにも現れたと考えることができます。
先程触れましたが、2018年の全IPO(TOKYO PRO Market上場を除く)銘柄に当選し、初値売りすると2,000万ほどの利益が出ます。
その詳細について考えてみましょう。
実は、2018年の全IPO(TOKYO PRO Market上場を除く)銘柄を初値売りすると、トータルで221,194円の利益が出ることになります。
ただし、これは1株で計算した場合です。
実際の株の取引は100株からの取引になります。
そのため、先ほどの金額に100を掛ける必要があるのです。
つまり、221,194円×100=22,119,400円もの利益を得られたことになります。
かなりの利益が得られる、おいしい投資法ということが言えるのではないでしょうか。
ここまで読むと、「IPO投資はかなり儲かる」と思うかもしれません。
ですが、IPO投資は必ず儲かるわけではありません。
次にこのことについて説明します。
IPO投資のリスクは公募価格割れの可能性があること
ただし、IPOは必ず儲けが出るわけではありません。
確かに勝率は高いのですが、やはりある程度は公募割れとなる可能性もあります。
その点がリスクです。
公募割れとなった場合、どの位の損をする事になるのでしょうか?2018年のデータを参考に考えてみましょう。
2018年のIPOで初値が公募価格を下回ったもののうち、最も差額が大きかったのが自立制御システム研究所です。
結果は、1株当たり570円のマイナスとなりました。
株は基本的に100株単位での取引となります。
そのため、少なくとも570×100=57,000円のマイナスが出たことになります。
一方、2019年11月28日現在までに行われた69件(うち、1件は上場取り消し)のIPOも見てみましょう。
2019年のIPOで、初値が公募価格を下回ったIPOのうち、最も差額が大きかったのは大英産業でした。
結果は、1株当たり190円のマイナス、100株では190×100=19,000円のマイナスでした。
このように、IPO投資には公募割れのリスクがあります。
100株単位での取引でも、万単位のマイナスが出ることがあります。
これが200株、300株と取引数が大きくなれば、当然その分マイナスも増えます。
勝率の高さがIPO投資の魅力ですが、当然公募価格割れで損失が出ることにも留意しなければなりません。
IPO投資は大きな利益を得られる一方で、損失を被ることもあります。
それでは、IPO投資でできるだけ儲けるには、どうすれば良いのでしょうか?
次にそのことについて説明します。
IPO投資で儲けるための具体的な方法
IPO投資は、勝率の高い投資方法です。
ですが、できるだけ損失を避けて、利益を得られるようにしたいものです。
そのためには、いくつか確認しなければならないポイントがあります。
その具体的な方法について、説明します。
初値が公募価格を上回るかどうか見分けよう
すでに書いたように、IPO投資は初値が公募価格を上回る確率が100%という訳ではありません。
勝率が高い年で96%、低ければ40%程度しか初値が公募価格を上回ることがないのです。
初値が公募価格を上回るかどうかは、実際に上場してみなければ判らない部分もあります。
しかし、ある程度予測することは可能です。
その予測するコツについて、次に詳細を説明します。
「初値公募価格」となる可能性を見極めるチェックポイント7つ
IPO投資で、初値が公募価格を上回るかどうかを見極めるポイントは、7つあります。
そのポイントとは、
- 公募株が売出株よりも多いかどうか。
- 市場の規模に吸収金額が合っているかどうか。
- 再上場の銘柄ではないか。
- 業績は増収増益基調か。
- 旬のテーマに沿った事業内容や人気の事業内容か。
- 公募価格が仮条件の上限価格を下回っていないか。
- 大株主にベンチャーキャピタルがいるかどうか。
です。
以下に、そのチェックポイント7つを列挙し、それぞれについて説明していきます。
公募株が売出株よりも多いかどうか
まずチェックする点は、株数です。
全体的な株数ではなく、公募株と売出株のどちらが多いか、ということを確認します。
公募株が売出株より少ない場合は、初値が公募価格割れする可能性が高くなります。
なぜなら、売出株というのは、既存の株主が保有する株を利益獲得のために市場へと放出するものだからです。
これを投資家は好感を持ちません。
それに対し、公募株は、上場する会社が事業拡大などの資金を調達するために市場へと放出する株です。
つまり、公募株は今後の会社の成長へとつながっていくものといえるのです。
そのため、投資家はこちらの方を好感を持ちます。
このような理由から、公募株が売出株より多い方が、市場ではプラス評価になるのです。
市場の規模に吸収金額が合っているかどうか
吸収金額が市場の規模を上回っていると、公募価格割れとなる可能性が高くなります。
なお、市場によって吸収金額は規模が異なります。
各市場の規模は、
- 東証一部上場の場合…250億円前後
- 東証二部上場の場合…10億円前後
- 東証マザーズの場合…30億円前後
- ジャスダックの場合…20億円前後
が目安となります。
なお、吸収金額は、
(新規発行株数+既存株主による売出株数)×公募価格
という計算式で算出します。
上場する市場と吸収価格とを比較し、上記の額に収まっているかどうかをチェックします。
もしもこの額を超えるようなら、市場は吸収できず公募価格割れとなる可能性が高まります。
再上場の銘柄ではないか
IPOの中には、新規上場といっても全くの新規ではないものもあります。
それは、一度上場を廃止となり、再上場を果たした銘柄です。
再上場する会社の場合、投資家の評価が通常の新規上場よりも厳しくなります。
やはり、かつて上場廃止となったことがネックとなるのです。
再上場できるまでに業績が回復したからといって、それを投資家は評価しません。
再上場の会社が市場で評価されるには、かなりの好材料がないと難しいでしょう。
このような理由から、再上場の会社の場合は公募価格割れしやすくなるのです。
業績は増収増益基調か
上場する会社の業績もチェックしましょう。
業績は、増収増益が続いている会社のほうが市場では高く評価されます。
ただし、増収増益の割合が小さいものについては、市場ではあまり評価されません。
そのため、増収増益の割合について確認する必要があります。
増収率と増益率は、前期比で2桁台が続いているものを選んでください。
また、今期の業績見通しもチェックしましょう。
見通しで、増収増益率が2桁台と予想されているものを選ぶようにします。
旬のテーマに沿った事業内容や人気の事業内容か
IPO銘柄も、事業内容は様々です。
事業内容によって、人気が出るものと不人気なものがあります。
特に人気になりやすいのは、旬のテーマの事業内容です。
例えば、今ならAIや5G、キャッシュレス決済等が人気になりやすいものの代表と言えるのではないでしょうか。
テーマ株と呼ばれる、市場で人気を集める注目業種はIPOでも人気です。
特に、将来性のある新技術、その中でもマスコミなどでよく取り上げられているものは人気があります。
この他に人気なのは、IT系の会社や飲食関係で株主優待を実施している会社です。
また、競合のいない独自技術を持つ会社も根強い人気があります。
反対に、不動産や食品、卸売りなどはあまり注目されず、公募価格割れしやすい傾向にあります。
また、以前であれば、バイオベンチャー企業も人気があったのですが、最近ではあまり人気がありません。
損をする可能性が高いと、敬遠する人が多いのです。
IPO銘柄であれば基本的に値上がりすると思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
必ず事業内容をチェックしましょう。
公募価格が仮条件の上限価格を下回っていないか
IPOでは承認後、公募価格決定のために1,000円~1,500円というような値幅を決めます。
この値幅のある価が仮条件です。
なお、先ほどの例でいえば1,500円が仮条件の上限となります。
個人投資家は、この仮条件の範囲の中で希望購入価格と株数を、証券会社を通じて申告します。
これが、ブックビルディング(需要予測)です。
このブックビルディングを基に、正式な公募価格が決まります。
公募価格が仮条件の上限を下回るということは、買いたい人が少ないということです。
つまり、それだけ人気がなく、初値が公募価格割れする可能性が高くなります。
大株主にベンチャーキャピタルがいるかどうか
IPO投資では、大株主にベンチャーキャピタルがいる銘柄を投資家は避ける傾向にあります。
というのも、ベンチャーキャピタルが利益確定のために、上場時に保有株を売却するかもしれないからです。
大株主なので、保有している株数はかなりの数になります。
そんな株数が売却されれば、株価は下押し圧力が強くかかり、下落してしまうでしょう。
そうなることを投資家は嫌がり、IPOに申し込もうとしません。
その結果、上場しても、初値が公募価格割れしてしまうのです。
ここまで、初値が公募価格を上回るかどうかを見極める7つのポイントについて説明しました。
これら7つのポイントをクリアしている銘柄は、初値が公募価格を上回る可能性が高くなります。
狙っていた利益を獲得できて、万々歳といったところでしょう。
ですが、話はそう簡単ではありません。
実は、IPOには、ここまでの話を覆すような大きなデメリットがあるのです。
次に、そのことを説明します。
デメリットは抽選が当たらないこと
IPOのプライマリー投資における最大のデメリットは、抽選に当たりにくいことです。
その当選率は極めて少なく、筆者が証券会社時代に聞いた話だと、大体1~2%とのことでした。
主幹事会社から応募した場合は、取り扱っている株数が多いので若干当選確率が上がります。
といっても、それほど大きく上がるわけではありません。
1%だった当選率が、せいぜい3%に上がる程度です。
2018年には、95件のIPOが開催されています。
しかしこの当選率から考えて、すべて応募した場合でも1~2件しか当選できないことになります。
運が良くても、3件当選するのがせいぜいでしょう。
IPOの当選確率はこのようにかなり低いのですが、当選確率を上げるために工夫することはできます。
ここまでIPO投資で儲かるための方法を説明しました。
実は、IPOには、プライマリー投資以外の方法もあります。
次に、その方法について説明します。
【裏技】セカンダリー投資で確実にIPO投資が可能
IPO投資の裏技として、セカンダリー投資という方法があります。
セカンダリー投資とは、上場後のIPO株を購入して値上がり益を狙う取引のことを言います。
IPO投資の場合、初値売りが主流となっています。
しかし、上場後もしばらくは大きな値動きが続くケースが多いので、その値動きを狙って投資するのがセカンダリー投資です。
このセカンダリー投資には、
- 抽選がなく、誰でも取引できる
- 上場後の値上がり益を狙える
- 株価が何倍にもなる「お宝株」になることも
- 信用取引もでき、資金を抑えた取引ができる
というメリットがあります。
IPO投資のネックは、抽選に参加する必要がある、ということです。
そのうえで、当選できなければ参加できないというのが最大の問題です。
しかしセカンダリー投資であれば、抽選に参加する必要もありません。
通常の株と同じ扱いになりますので、誰でも売買できるのです。
セカンダリー投資は、主に上場後の値上がり益を目的として投資します。
上場後なのでそれほど値上がりしないと思うかもしれません。
しかし、初値からさらに値上がりする銘柄も少なくないのです。
ただし、プライマリー投資とは違い、ある程度の投資期間が必要となります。
中には株価が何倍にもなるような、お宝株が見つかることもあるのが魅力です。
また、プライマリー投資とは違い、セカンダリー投資の場合、信用取引での投資も可能です。
資金が少なくてIPO投資ができなかった銘柄に投資できるという点も、メリットです。
まとめ
IPO投資は、儲かる投資方法として多くの投資家から人気があります。
また、安全性の高さも人気の理由の一つです。
すべてのIPOに参加できた場合、勝率は悪くても70%台の後半、良ければ90%台です。
通常の株式投資よりもずっと勝率が高く、その点では安全性が高いといえるでしょう。
しかし、IPOは人気が高いので、参加できるかどうかはわかりません。
その上、せっかく当選できても公募価格割れとなってしまう可能性があります。
その点が不満という方は、セカンダリー投資を狙うのも一つの手でしょう。
IPO投資で儲ける方法は、一つだけではありません。
様々な方法で利益を狙っていきましょう。