試用期間に解雇…能力不足が理由は違法?法的側面で解説

試用期間中の解雇について「試用期間での解雇はあるの?本採用されない可能性を知りたい」と気になりますよね。

試用期間で解雇されたらどうすれば良いのか、解雇は合法なのかと様々な疑問にお答えします。

筆者は約10年間、人事を経験しました。大手企業での人事も経験しています。

試用期間での解雇は残念ながら4名ほど経験しています。

その経験からお伝えすると正社員採用が前提の求人であれば試用期間で解雇することは9割以上の確率で出来ません。

法律的な側面では試用期間での解雇は社会通念上、相当な理由がなければしてはいけません。

それだけ試用期間中であっても解雇は難しいということです。

この記事では試用期間での解雇が有効な場合、違法な場合を理解することができ泣き寝入りする必要がなくなります。

試用期間の解雇に不安や疑問がある方は必ず一読してください。

試用期間の解雇は可能?法的側面から解説

試用期間中であっても解雇をすることはほぼ不可能です。

理由として、労働契約法16条においてどんな場合も解雇には客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由が必要となるためです。

参考:労働契約法 | e-Gov法令検索

「客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由」とは道行く人、しかも初めて事情を話す100人を相手にこの解雇の理由は妥当かどうかを尋ねて、100名全員が「この解雇の理由は妥当だと思う」と回答した場合、認めてもらえるレベルの要求です。

全く事情を知らないような他人がいきなり聞いて、納得できるレベルの理由が必要なのです。

しかも、仮に解雇が妥当だという客観性を得たとしてもさらに高いハードルとして社会通念上相当という文言まであります。

「社会通念上相当」とは解雇という処分が果たして一般的な社会において通用するかということです。

つまり、解雇という労働者への死刑宣告が妥当だったかという部分です。

「これは本当に解雇するほど悪いことだったのか?やりすぎじゃないか?」と裁判官に思われてしまうと会社側の負けということです。

つまり、会社側がほぼ解雇を主張したとしても敗北するということです。

よっぽど特殊なケース以外では会社側が労働裁判でしかも解雇問題で勝つのは難しいということです。

試用期間中であったとしても試用期間終了後に正社員雇用に間髪入れずになるという契約となっている場合は特に難しいですね。

実際に筆者はこれまで約10年間で1,000名以上採用してきた中で、試用期間中に解雇に至ったのはたったの4名でした。

あまりにも少ないので、よく記憶しています。

では「どんなケースだと解雇は有効になるの」と気になりませんか?

次は、筆者が約10年間の人事経験の中で遭遇した採用1000名中たった4名だけの試用期間解雇について紹介します。

合法的に試用期間で解雇されるケース

合法的に試用期間で解雇されるケースとしては、以下の4ケースがあります。

  • 直近5年以内に暴力団員であったことが判明したケース
  • 課長職以上など管理職として能力に期待したが活躍できなかったケース
  • 採用選考時に知り得なかった病気が発覚・悪化したケース
  • 試用期間中に無断欠勤、音信不通となってしまったケース

それぞれについて解説します。

解雇されたケース1:直近5年以内に暴力団員であったことが判明したケース

直近5年以内に暴力団員であったことが判明して解雇せざるを得ないというケースがありました。

警視庁の求める暴力団員の排除条例では暴力団を辞めて5年以内の者を雇用すると反社会的勢力と密接な関係にあるとして処罰される可能性があったためです。

参考:東京都暴力団排除条例 Q&A|警視庁

また、採用時には前職をごまかして書いており経歴詐称などの疑惑もあったため試用期間中解雇に至りました。

ただ、最終的には解雇しようとしたところ自ら退職を申し出てくれたため、大事には至りませんでした。

解雇されたケース2:課長職以上など管理職として能力に期待したが活躍できなかったケース

能力に期待して課長職以上の能力があるとしていきなり課長職で採用した方がいました。

前職でも課長職の経験があり期待をしていましたが、単純な仕事が出来ずに退職勧奨に至りました。

後ほど説明しますが、管理職で採用して能力に期待して採用した場合には解雇が有効とされたケースが多々あります。

解雇されたケース3:採用選考時に知り得なかった病気が発覚・悪化したケース

採用時に知る方法がなかった病気を隠しており入社後に発覚したため、解雇に至ったことがありました。

もちろん病気があったから解雇したわけではなく、仕事をすることが難しいだろうという判断で退職をお願いした形でした。

試用期間中に体調が悪化されたため休職を挟みましたが、半年の試用期間中の半分も出勤できず傷病手当を受ける状態でした。

本人からもこれ以上続けるのが辛いという申し出がありました。

本来は自己都合退職のところでしたが、前職分と合わせれば雇用保険がすぐに受け取れる状態だと判明したため会社都合退職(解雇)の形にして雇用保険を受給できるように配慮して退職をしてもらいました。

解雇されたケース4:試用期間中に無断欠勤、音信不通になってしまったケース

正当な理由なく無断欠勤等、音信不通で辞めてしまう方がいました。

無断欠勤をしたとしてもすぐに解雇できるわけではありませんが、この型の場合は半年間の試用期間中に無断欠勤が30日以上あったこともあり話し合いの場を設けることになりました。

面談を行って、労働組合との協議を行い試用期間を3ヶ月延長し、長所を活かして頑張れと伝えて正社員登用に向けて頑張ってもらおうとしましたが、なんと会社の寮から荷物をそのままに脱走しました。

9カ月間連絡が取れない状態に陥ったことで、労働基準監督署に対して解雇する旨を説明し、会社の社内会議で解雇決議をとり、解雇しました。

解雇してから3か月後に本人から「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」と手紙が届き、解雇について異議がないということで決着となりました。

試用期間中解雇を決行するまでに実に1年半近い時間を要しました。

これほど試用期間中であっても解雇は難しく、慎重になるべき問題であるということです。

仮に彼が不当解雇で損害賠償請求を起こして来たら、100万円程度は会社に賠償命令が下りている可能性もあります。

「ここまで手を尽くしてやっと解雇は認められる」ということです。

試用期間中に退職勧奨や解雇は違法の可能性大

試用期間中に退職勧奨を行うことや解雇をすることは違法の可能性大です。

自分から辞めたいと言わない限り、企業は社員を退職させることはできないためです。

特に試用期間中、問題なく普通に出勤出来ていれば解雇はできません。

仮に出勤できていない状態であったとしても無断欠勤でさえなければ勤怠を問題に解雇することも難しいです。

なぜこんなに試用期間解雇が横行するのかといえば、結局のところ、経営者側も労働者側も労働基準法を深く理解していないという問題が根本にあります。

一度雇用した以上は最後まで面倒を見るという覚悟が経営者には求められています。

ところで「能力不足で解雇って有効なの」と気になりませんか。

次は、能力不足で解雇することは可能なのかについて解説します。

試用期間中に能力不足が理由での解雇は可能?判例から紹介

試用期間中に能力不足で解雇することは可能なのかどうかを判例を元に紹介します。

結論から言えば管理職や年収2,000万円以上の金融トレーダーに関しては能力不足での解雇が認められる可能性があります。

具体的には、以下の判例です。

  • 判例で認められた解雇事例
  • 裁判で違法とされた解雇の例

それぞれについて解説します。

事例1:裁判で正当と認められた解雇

能力不足の解雇事例で有名な判決として社会福祉法人どろんこ会事件(東京地判平31・1・11)を紹介します。

参考:年収1000万円で採用した部長の本採用拒否 | 労働新聞社

管理職として年収1,000万円で採用された人材が能力不足であるとされて解雇された事件で、裁判所は試用期間解雇を認めました。

管理職等の高待遇の求人の場合には、しっかりとした能力がないと採用後に本採用を拒否できるという判決です。

つまり、能力不足を理由として本採用を拒否できるのは採用時に能力への期待があり、しかも一般的に考えるよりもかなりの高待遇というケースに限られるということです。

逆に高待遇とは言えない年収240万円から600万円以内程度の一般的な給与しかもらっていないような人を能力不足として解雇することはかなり無理があります。

事例2:裁判で違法とされた解雇

能力不足による解雇が無効とされたニュース証券事件があります。

参考:労働基準判例検索-全情報|公益社団法人全国労働基準関係団体連合会

ニュース証券事件では営業職として入社した社員を解雇し、後に無効であるという判決がおりています。

わずか3ヶ月程度の試用期間では能力不足を理由とした解雇は難しいという判決です。

「試用期間中に解雇されてしまったけれど、どうすれば良いの」と気になりませんか。

次は、試用期間中に解雇された場合の対処法について解説します。

試用期間中に解雇されたときの相談先

試用期間中に解雇されたときの相談先として、以下の2つがあります。

  • 弁護士に相談する
  • ユニオンに相談する

それぞれについて解説します。

弁護士に相談する

弁護士に相談することで不当解雇の撤回を求めて訴訟をしてもらうことができます。

労働法に詳しい弁護士を探すようにしましょう。

労働法は司法試験の必須科目ではなく、専門家がかなり少ないというのが実情です。

労働者側弁護士として活動している弁護士を探すようにしましょう。

また、弁護士に依頼する場合には着手金などを含めてケースバイケースですが40万円程度のお金が必要となってきます。

ユニオンに相談する

ユニオンに相談して不当解雇撤回を求めて団体交渉を行ってもらうことができます。

ユニオンは100%労働者側の立場で会社と戦ってくれます。

ほとんどが団体交渉で決着することになりますが万一、団体交渉で決着がつかない場合にはユニオンには複数の弁護士さんとつながりを持っているため、裁判を起こすこともできます。

ユニオンは1か月おおむね1,000円程度で加入することができるので、まずはユニオンで団体交渉を行うほうが金銭的な負担は低いですね。

ブラック企業の在籍よりも転職して気分一新するのも手

筆者も約10年間ほど人事を経験していますが、試用期間解雇するような企業はブラック企業といって差し支えないと考えていますし、そんな会社に在籍していても明るい未来はまずないと断言できます。

法律を守らない企業に勤務することであなたの貴重な時間が奪われてしまうためです。

安心して一生働くことが出来ない場合は転職エージェントを活用し、転職活動を検討してみましょう。

転職エージェントには転職者が多く来るため各企業の特徴をよく知っています。

残業時間や会社の体質などを優秀なエージェントは把握しているため、再度ブラック企業に捕まる可能性を下げることができます。

とくにおすすめなのがマイナビAGENTがです。

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もちろん相談に乗ってもられる転職エージェントも経験が豊富です。

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試用期間の解雇で失業保険は支給される?

試用期間の解雇は試用期間の長さによって支給されるかどうかが決まります。

解雇の場合は雇用保険加入期間が半年あれば失業保険が支給されるためです。

試用期間が5カ月以下の場合には支給されない可能性が高くなります。

ただし、前職で雇用保険に加入していた期間があり、失業保険を受け取っていない場合には支給される可能性があります。

まとめ

まとめ

試用期間であっても解雇には労働契約法16条に基づく「客観的に見て合理的かつ社会通念相当な理由」が必要となります。

合法的に試用期間で解雇できるのは以下の4ケースです。

合法的に試用期間で解雇されるケースとしては、以下の4ケースがあります。

  • 直近5年以内に暴力団員であったことが判明したケース
  • 課長職以上など管理職として能力に期待したが活躍できなかったケース
  • 採用選考時に知り得なかった病気が発覚・悪化したケース
  • 試用期間中に無断欠勤、音信不通となってしまったケース

試用期間中に退職勧奨を行うことや解雇をすることは違法の可能性大です。

能力不足を理由とした解雇が認められた判例は管理職などの高待遇で能力に期待して採用して能力がなかったと裁判所が認めた判例です。

反対に一般社員で待遇がそれほど良くない場合には能力不足で解雇することは難しくなります。

試用期間中に解雇された場合には、ユニオンまたは弁護士に相談しましょう。

試用期間で解雇するようなブラック企業に在籍するよりも、合法的な会社経営をしている企業に転職するようにしましょう。

監修者

上場・ベンチャー・中堅企業で様々な役割を経験。今なお、採用・人事の業務を最前線で経験し、「いま」の「生きた」知見を発信しています。