転勤拒否は可能か?断れる条件と断るリスクを経験者が解説

転勤を依頼されたり転勤候補者になり、そわそわしていませんか?

筆者が労働組合の執行委員をしていたとき転勤に関する相談は幾度となく聞いてきました。

業務命令とはいえ、非常にセンシティブな悩みで難しい悩み相談の一つです。

実際、筆者も転勤の話が原因で退職していますので、転勤に関する以下のような悩みを解決していきたいと思います。

  • 「転勤は断れるの?」
  • 「転勤を断ったらクビになる?」
  • 「転勤を回避できる方法はある?」

本記事では、会社からの転勤は拒否できるか?転勤拒否のデメリットは何か?について経験談と具体例を交えながらご紹介していきます。

転勤拒否はできるのか?

転勤拒否はできるのか?

結論、転勤の可能性がある条件で就職している場合は、原則転勤を拒否できません。

転勤拒否できるか否かの判断は、就業規則に記載されているかがポイントです。

もし、会社の就業規則に「従業員に転勤を命じることがある」という一文がある場合は、業務命令で転勤に応じなければなりません。

会社側は、採用時に転勤の可能性がある旨を説明しますので、それを了承して入社している場合は拒否できないのです。

日本では解雇権が制約されている反面、転勤や異動などの人事を柔軟に行うことが認められています。

正当な転勤命令か判断する基準としては、不当な動機や目的でないことに加え、社員が転勤することで想定される不利益の大きさを確認しましょう。

不当な動機というのは、嫌がらせなどで転勤を命じたり、うつ病を患っている方に転勤を命じたりすることです。

後ほど詳しく解説しますが、就業規則に記載があるにも関わらず理由もなく転勤を断ると、不利益を被ることになるので注意が必要です。

転勤を拒否できる条件

どんな状況でも、人事権の名のもと転勤を命じることができる訳ではありません。

転勤を拒否できる条件というのがありますので、いざというときのためにも覚えておきましょう。

転勤拒否できる理由を理解しておかないと、不必要な引っ越し費用が発生したり、家族持ちや介護中の方は、ライフプランが崩れる可能性があります。

反面、転勤を拒否できる条件以外の場合は、人事権として従うほかないのです。

会社に転勤を命じる権利がないとき

先ほども解説しましたが、転勤を命じることができる前提条件として、就業規則や雇用契約書に根拠となる規定が定められている必要があります。

そのため、雇用契約書に転勤命令の定めがなければ、転勤を命じられても従わなくてよいのです。

筆者が現在勤めている外資系企業は、全国各地にサービス部門があるものの、採用時の契約条件に転勤の定めはありませんでした。

転勤がない職場の場合、求人票にも「転勤なし」と必ず明記されています。

また、就労場所の範囲が限定されている地域限定社員の場合も、転勤させることができない雇用契約となります。

転勤を命じられたときは、まずは落ち着いて、就業規則と雇用契約書を確認しましょう。

拒否する正当な理由があるとき

労働者の義務といえども、子供の病気や親の介護を理由に、転勤を拒否できるケースはあります。

自身が難病や大病で治療中の方も、転勤を避けられるというケースを筆者の勤め先で見てきました。

ポイントになるのは、「病状の重大性」「専門医が必要」「入院・介護の必要性」などが、会社が考慮してくれる判断基準になります。

しかし、介護や通院の必要性がなくなれば、転勤の可能性はもちろんでてきます。

あくまで会社が転勤を考慮してくれるという意味ですので、適用範囲や考え方は会社ごとに変わります。

家族の病気や自身の病気でやむを得ない事情がある方は、医師の診断書など根拠を用意することと、勤め先の就業規則などを確認しましょう。

転勤を断るデメリット

転勤を断るデメリット

転勤を命じられたにも関わらず、転勤を断ってしまうと色々と不都合なことが発生します。

転勤は会社への忠誠心を判断する材料にもなり、渋々でも転勤に応じてくれた人は、その後も職場で重宝されます。

筆者が10年勤めた日系製造業では、海外拠点建設時に多くの社員が海外転勤を行いました。

その際、転勤を理由に辞めてしまった人もいましたが、海外転勤に応じてくれた方々は二階級アップの昇格が条件になっていました。

転勤を断った人が、その後どのような道を歩むのかについて、筆者の経験談を交えながら解説します。

出世の道がなくなる

転勤拒否は、大げさな言い方をすると社命に背くことと同じ意味になります。

会社や職場の上司からすれば、期待する役割を担ってくれないという意味ですので、昇進や昇格が遠のく原因になります。

就業規則に転勤に応じる義務があると記載があるものの、転勤拒否しただけでいきなり懲戒解雇になるケースは稀です。

しかし、解雇といった重い処分はないものの、出世のレールから外れることは現実的に多いといえるでしょう。

実は筆者自身も、内示の段階で転勤を断り、部署異動という形で出世のレールを外れました。

キャリアアップを踏まえ、新工場立ち上げに貢献して欲しい旨を説得させられましたが、家族との時間と出世を天秤に掛けた上での決断でした。

内々示や内示の段階で交渉できたとしても、「転勤を断る=出世の道を捨てる」ということは理解しておきましょう。

会社で居心地が悪くなる

辞令が出る前に転勤を断れたとしても、その代わりに他の誰かが転勤することになります。

誰にも話していなければ隠し通すこともできますが、担当や立場によっては周囲から疑いの目を掛けられます。

ついつい転勤を断った話を周りにしてしまうと、転勤を断れる前例を作ったことになるため、職場に残りづらい雰囲気になってしまいます。

会社としても転勤を断れる前例を作られてしまうと、その後の配置転換に大きな影響を与えるため、部署異動などで対応せざるを得ないのです。

筆者が勤めていた会社でも、転勤を断ったことを周りに話してしまった人は、居心地が悪くなって辞めてしまいました。

筆者自身は転勤の話を退職するまで話しませんでしたが、部署異動してからでも居心地の悪さは少なからずありました。

また、転勤を断ったことが理由で、その後の上司との関係もギクシャクしやすくなる点も忘れてはいけません。

転勤を断った人のその後を事例ごとに紹介

ここでは、筆者の勤め先であった事例を交えながら、転勤を断ったあとの末路を紹介します。

筆者の場合は、新工場立ち上げに伴い、大勢で転勤する話が持ち上がったときの話が中心となります。

職場内で繰り広げられる、さまざまな人間模様が工場立ち上げまでの1~2年間でありましたので、是非とも参考にしてください。

退職せざるを得ない状況になった

転勤を断ったことを周りに言いふらすと、会社に残りづらい雰囲気になります。

おしゃべりな人ほど自慢話のようにペラペラと話してしまうため、他に転勤の声掛けをされた人たちを中心に不満が続出します。

会社としては転勤を断れる前例を作りたくないため、解雇とまではいかないものの、退職を後押しするような状況になりかねません。

筆者は転勤を断った後に、これまでのキャリアとは関係のない部署に異動させられましたが、口外しなかったため、退職に追い込まれる状況にはなりませんでした。

あからさまな人事でしたが、転勤を断る前から転職活動をスタートしていましたので、部署異動した数ヶ月後に退職しました。

転勤を断る場合は、当事者以外には絶対に話さないことと、退職も視野に入れるくらいの腹積もりで交渉しましょう。

他部署に異動させられた

正当な理由で転勤を拒否したり、内示の段階で転勤を避けられたとしても、部署異動になる可能性は大いにあります。

実際、筆者は転勤の辞令が出る前に、他部署に異動する形で転勤拒否の折り合いをつけました。

仕事の適正や自分が思い描いていたキャリアではなかったものの、転勤を断る以上、受け入れざるを得ない状況だったのです。

本来は交渉の余地がない転勤(人事権)ですので、転勤拒否をする代わりに部署異動で穏便に済ませたということです。

筆者以外の方も、辞令が出る前に転勤を拒否した人は他部署に異動していました。

しがみついてでも今の会社に残りたいという方は、これまで積み上げたキャリアと関係なくても、部署異動はひとまず素直に受け入れましょう。

うつ病になって休職

転勤や部署異動も受け入れられない、しかし転職するつもりもないという方が一定数います。

10年、20年と勤めてきたプロパー社員に多いのですが、転職を踏み切れずに八方ふさがりになるケースは意外と多いのです。

悩んだ末にうつ病になり、休職してしまったリーダークラスの人間を同じ職場で二度見てきました。

責任感が強いことも影響していますが、他の会社を知らないがゆえに、転職というカードを切れずに病んでしまう傾向にあります。

一度休職した方々は、ほぼ必ずといっていいほどその後も休職を繰り返します。

いくら優秀な方だとしても、職場復帰したところで腫物扱いされてしまいますので、結果的にその後のキャリアを捨てることになります。

転勤の可能性がある会社で働く以上、転勤に応じられないのであれば、いつでも転職できる準備は整えておいた方が賢明です。

転勤を断る前にやるべき4つのアクション

転勤を断る前にやるべきアクション

予備知識もないまま、転勤を断るのはリスクが大きすぎます。

辞めざるを得ない状況になり、次の仕事が決まらないまま職場に残るのは精神衛生上よくありません。

ここでは、転勤を拒否する前にやるべきアクションを4つにまとめましたので、必ず目を通してから交渉しましょう。

これらも筆者の実体験に基づいた内容となっていますので、転勤の可能性がある方は必見です。

交渉の余地があるのか確認する

転勤の話が、辞令が出る前の内々示や内示の段階であれば、交渉の余地がまだあります。

内示の段階では、社員に転勤可能かヒアリングしている状態ですので、生活面で不利益が生じる場合は拒否できる可能性があるのです。

交渉のポイントになるのが、転勤が嫌だからとストレートに気持ちを伝えるのではなく、やんわりと家庭の事情などを伝えることです。

筆者の元上司も、自身の体調不良を理由にうまく転勤を避け、配置転換や部署異動で勤務地を変えずに同じ拠点で働いています。

完全に転勤を拒否するのは難しいかもしれませんが、家族の介護や子供の就学状況を理由に、転勤するタイミングを先延ばしすることは可能です。

会社に人事権があるといえども相手は人間ですので、感情的にならずに事実を淡々と説明しましょう。

転勤してでも残りたい会社なのか考える

どうしても転勤したくない理由がある場合、一度思いを紙に書き出してみることをおすすめします。

その際、キャリアを捨ててでも残りたい会社なのか?部署異動や適正を無視した配置転換をされても残りたい会社なのか?自問自答してみましょう。

どうしても今の職場でやりたいことがあったり、叶えたいことがあれば上司に熱く語り掛けましょう。

ただし、現在の給料や職務内容が、他の会社でも叶えられるのであれば、転職も視野に入れられます。

筆者の場合、家族帯同で地方転勤か単身赴任を考えたとき、転職した方が自分のためにも家族のためにもなるという答えにたどり着きました。

子供との時間を大切にしたかったことと、お互いの両親が近くに住んでいる方が、生活する上でアドバンテージが大きいと考えたからです。

転勤の話を持ち掛けられたら、周りの環境を変えてでも残りたい会社なのか、冷静に考えてから判断しましょう。

辞めるつもりで転勤を断る

転勤と転職を天秤に掛けたときに、転勤の道を歩む方ことでデメリットが多ければ、転職活動を進めましょう。

日頃から転職活動の準備をしておけば、いざ転勤の声掛けをされたときに断るという選択肢が生まれます。

経験上、辞める覚悟で転勤拒否すれば、その気持ちが伝わって引き止められたり、配置換えで転勤を回避できる可能性も十分あります。

転勤を回避できない場合でも、余程今の会社や職務内容にこだわりがない限り、家族持ちの方は転職した方が幸せな道を歩めるのではないかと考えます。

筆者が知る限り、家族帯同で転勤をしたり、単身赴任で家族を残したまま転勤した方々で、喜んでいる人を見たことがありません。

それだけ生活環境を会社都合で変えるということは、苦痛を伴う決断なのです。

筆者の場合は、転勤で生活環境を大きく変えるくらいなら、同じ生活圏内で転職活動をした方がメリットが大きいという決断に至りました。

辞める場合は転職先が必ず決まってから退職する

もし、会社を辞める流れになったときは、必ず次の仕事が見つかってから退職しましょう。

少子高齢化で売り手市場ともいわれていますが、好条件の人気の企業には、常に応募者が殺到しています。

また、転職したいタイミングに行きたい会社の求人があるとは限りません。

筆者の周りでも、会社を辞めてから転職活動を行った方が数名いますが、30歳を過ぎてから仕事を探すのは困難を極めます。

筆者自身、転勤を断ってから次の仕事に就くまで約半年掛かりましたので、1日でも早く転職活動を進めておくことをおすすめします。

転勤が理由で退職ともなれば、会社に対して不満が残るかもしれませんが、勢いで会社を辞めてしまうのは避けましょう。

まとめ

変化の多い時代だからこそ、企業は生き残りを賭けて工場の増設や合併などで、他拠点化を進めていきます。

大企業ほど日本各地や世界各国に拠点があるため、大手に勤めている方を中心に、転勤は切っても切れないサラリーマンの宿命ともいえます。

しかし、転勤が就業規則や契約条件にあったとしても、タイミングによっては人生を揺るがす大きな決断となります。

転勤の打診を機に、泣く泣く会社を辞めてしまったり、精神を病んでうつ病になった人もいます。

転勤の可能性が少しでもある方は、今回の記事を参考にしていただけると幸いです。

監修者

上場・ベンチャー・中堅企業で様々な役割を経験。今なお、採用・人事の業務を最前線で経験し、「いま」の「生きた」知見を発信しています。